だんじょんあたっく


 誰かが言った。


「ダンジョンなんて、人間のために作っているワケじゃない」


 誰かが言った。


「ダンジョンの中に宝が本当にあると思う?」


 そんなこんなで二人して現代のダンジョン――洞窟に潜ったですよ。


 以下、敬称略。


 場所は青木ヶ原。富士の樹海。
 そこで見せ物になっていた我々を待ちかまえていた二つのダンジョン。
 地元の住人は「Strom cave」や「Ice cave」と呼ぶその洞窟は、まるで我々を招き入れるかの様に口を広げていた。
 足場は相当不安定。
 何より、明かりの届かない地面に穿たれた穴。
 そして、誰かが敷いたのか、それとも中に生息する何かが置いたのか、まるで階段の様に積まれた石の数々がまるで、喚び声を上げている様だった。


「……本当にここがあの?」


「ああ、間違いない」


 そして我々は一歩、また一歩と足を踏み入れ――。


 最初の異変に気付いたのはそんちょだった。


「寒っ」


 その異変は私の身体をも蝕む。


「一段降りただけなのに空気が違うだとっ」


 洞窟内はまるで初秋、もしくは初冬を思わせる寒さに包まれていた。


「ふむ。この暗さでは満足にあたりを見ることは出来ないな。……“灯り”を使うぞ」


 狭霧はつぶやき、指をぱちりと鳴らす。


 洞窟内に設置された電灯が“灯り”が照らし出した世界は、まさに暗闇に踊る白銀の世界だった。


 氷。
 氷。
 氷。


「馬鹿な。今は夏だぞっ!」


 驚愕する狭霧に答えたのは他でもなく、そんちょだった。


「だが、我々の前で起きているこの現象は事実だ。……気を付けろ。第二の罠が発動するぞ」


 まるでその言葉に応えるかの様に。
 我々を第二の罠が襲う。


 ぴとん。


「ぐぁ」


 それは、天井から落ちてきた雫だった。


 ただの雫ではない。もう、そりゃ氷と思わしき冷たさを帯びたこの洞窟の瘴気を帯びた、凶器ともつかない水滴。


 一瞬、上がった悲鳴は狭霧のものだった。


「宝は諦めよう。こんな場所、しばらくは大丈夫でも長くいたらどうなるか分かったものじゃない」
「ここまで来て諦めるのか。この奥にある遺産をみすみす逃して?!」
「……だが、この洞窟では……」


 行く手を阻むのは何も寒さ瘴気だけではない。洞窟の広さも、まさしく我々に対する罠だったのだ。
 その二人とも、平均男性ぐらいの身長は備えている。
 そして、二人共に膝を折らなければ、――つまり、中腰にならなければ、洞窟の中に立つことは不可能なのである。


「ゴブリンがもしも出てきたらどうするつもりだ!」


 狭霧が挙げた名前は、子供の背丈ほどの邪妖精だった。
 そんちょは首をふる。


「満足に戦うことは出来ないだろうな」
「くそ、スピアを持っていないのが悔やまれる」


 せめて、スピアでなくても刺突武器ならば。
 広さが充分ではないダンジョンでは振り回す武器は不利になる、とは偉大な先人の言葉だったが、それを真に受けていなかったのだ。


「祈ろう。今はこのまま進むしかない」


 そして彼らを待ち受けていたのは――。


 宝はそこにあった。
 確かにあった。


 養蚕の繭だった。


「……なるほど。この冷気で蚕を冬眠状態にして、出荷の時期を遅らせていたのか」


「ここまで来て宝がこれかっ!」
「洞窟の特性を生かした宝だと思わないか?」
「俺たちが手に入れて役に立つと思うのか」
「なるほど。誰も宝に手を付けていないわけだ」
「くそ。……次のダンジョンに行くぞ!」


 そして、彼らの冒険は終わったのだ。
 だが、彼ら最後の冒険者とは限らない。いずれ第二弾三の……以下略。



 と言うわけで、ダンジョンアタックの気分を楽しめて良かったです。まる。
 ……これはシナリオに生かせないかなぁ。